本のこと

見たい?走馬灯

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『はるか、ブレーメン』(重松清著)

 3歳年上の重松清さん。ずっと読み続け、人生を学んできた。子育て世代の家族や学校を舞台にした物語が多い。最近は作者自身が年齢を重ねたせいか、人生の終わりを考える作品が増えてきた。『はるか、ブレーメン』(幻冬舎 2023年4月)もその一つ。人の記憶を読み臨終の間際に見るとされる走馬灯を編集する絵師と同様の能力を見いだされた高校生男女2人の物語だ。これこそ「重松清版 君たちはどう生きるか」(大人向け)だと思う。


 自分が子どもだった頃のことも、子どもたちが小さかった頃のことも、最近はほとんど忘れている。思い出す機会もない。それらの絵を見せてくれるのなら、ちょっと怖いけど見てみたいかな、死ぬ間際の走馬灯。


 失敗やつらい理不尽な経験、後悔したことは数えきれない。消したい思い出も。それでも、良いことだらけに編集されるのは勘弁願いたい。どんな思い出も自分ごととして受け止め、愛おしみたい。


 そんなことを思いながら読んだ。前回のブログで重松さんの文体は小説にこそ似合うと書いたが、本書は「重松節」を堪能できた。ユーモア、内容を想像できないタイトルの意味と言葉遊び、優しい登場人物たち、手で触れるような感情表現と風景描写…。後半、主人公の遥香たちが、走馬灯を編集する会社、東京のブレーメン・ツアーズを訪れてからはノンストップだ。途中、何度も鼻の奥がつんとして活字がにじむ。夏の夜が目の前に立ち上がるラストシーン。全424ページを閉じると、長く優しい余韻が待っている。好きな1作である。(2023.08.20 80回)

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