『証し 日本のキリスト者』(最相葉月著)
最相葉月さんは、次回作を常に期待してしまうノンフィクション作家である。寡作でもある。力作の絶対音感、星新一、セラピストときて、次は何をテーマに選ぶのだろうと思っていたら、『証し 日本のキリスト者』(角川書店、2022年12月)である。
「構想10年、取材6年。1000ページを超える圧倒的なボリュームで綴る長編ノンフィクション」。サラリーマン記者にはとてもできない。でも、いつか挑戦してみたい。内容は、全国の協会を訪ね、キリスト者135人に、神と生きる半生を聞き、書き起こした。災害事件・事故、病のような不条理に直面してなお、彼らはどうして神を信じられるのか。
記者は無宗教だが、願い事はよくする。家内安全は概ね叶っているが、この1年半、どの神様仏様にも助けてほしいと頭を下げ続けていることは残念ながら実現していない。本書に登場する多くのキリスト者たちも即物的に願いが叶っているわけではない。本書でインタビューに応じた神父さんの言葉にはっとした。
「多くの人はすぐに解決を求めます。痛みを取ってほしいと。(中略)そうではなく、痛みを抱えて生きていくこと、痛みとはなんなのかに気づいてもらうことが、スピリチュアルケアです。痛みを抱えたままでも生きていく力があるとわかれば、生きていけるのです」
自分ではどうしようもできない状況に耐える力、「ネガティブ・ケイパビリティ」そのものである。そんな力を蓄えて生きていくこと。それが神の教えなのかもしれない。人生簡単ではない。著者が以前『セラピスト』で紐解き、本書を執筆するきっかけとなったカウンセリングも「自己解決能力を信頼して回復を支える」という考え方に根差している。ネガティブ・ケイパビリティの概念を日本で広めたのも精神科医で作家の帚木蓬生さん。キリスト教とメンタルヘルスは近い。(2023.10.02 88回)