『カモナマイハウス』(重松清著)
定年間近、介護、横浜南部にある実家の空き家化、夢を追う長男の将来…。少しずつずれながら、テーマや設定が似ているのだ。記者のマイハウスと。重松清さん著『カモナマイハウス』(中央公論新社、2023年7月)は身につまされる。だが、例えば本書のメインテーマの空きは全国で849万戸。ブルガリアやデンマークなら、「一つの国がそっくり引っ越してきても受け容れられる」という。かなり普遍的な問題ということだ。アラ還世代が抱える問題は、共通しているのだろう。
それにしても重松さんは、人の気持ちをぴったりと言い表す。01年出版の『定年ゴジラ』では、どうして30代で定年世代のことが書けるのかと驚いた。父親のことを思って書いたという。本書は、重松さん自身が還暦を迎えての作品だ。リアリティは増したと思うが、作家に定年はない。サラリーマンの気持ちがどうして分かるのか。重松さんのインタビューをネットで見つけた(https://realsound.jp/book/2023/09/post-1427466_2.html)。
「定年のない仕事だからこそ、定年というものを客観的に見ている。(略)自分に定年がないから余計に、普通のサラリーマン以上に意識的に見ているのかもしれない」
さらに空き家問題については取材の結果だという。第3者としての取材と観察。記者の仕事と一緒ではないか。貴重な情報である。そこに作家の想像力が加わり、作品ができる。重松さんは記者の少し年上の人生の先輩。体調を崩しているようだが、これからも書き続けていろいろ教えてほしい。還暦作家の『定年ゴジラ』を読んでみたい。本書ではまだ定年後のことは書かれていないので。(2023.10.07 No.90)