本のこと

生還者の教え

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『フランクル心理学入門』(諸富祥彦著)

 メンタルの不調に陥ってから今まで、なぜここにたどり着かなかったのだろう。これまでも辛いときには何度も『夜と霧』を読んで自分を励ましてきたのに。きっとルポルタージュ、人生論として読んでいたのだろう。ナチスの強制収容所から生還したヴィクトール・フランクルだ。体験が強烈過ぎて、独自の心理療法を提唱した精神科医という側面を見落としていたのかもしれない。


 今回読んだのは、フランクルの哲学や心理療法などを解説した『フランクル心理学入門 どんな時も人生には意味がある』(1997年10月、コスモス・ライブラリー)だ。著者の心理学者、諸富祥彦さんの解説は平明で分かりやすい。フランクルは「ロゴセラピー」という、人が自らの生きる意味を見出すことを助けることで、精神疾患や苦境からの回復を目指す心理療法を提唱している。生きる意味とは「自分を待っている仕事や、自分を待っている愛する人」のことだ。それなら記者にもある。同療法の考え方をもとにした次の言葉は、今の自分の指針になる。実践もできそうだ。


 「人生の意味の問題に関しては、その人がどんな仕事をしているか、職業がなんであるかは、重要でない。むしろその仕事で、自分のなすべきこと、求められていることにどれだけベストを尽くして取り組んでいるかが重要だ」。今、自分の本分を尽くし、人の役に立つことに生きがいを見いだすことが大事なのだという。

 記者は1年半前の不本意な異動が原因でメンタルに不調を来たし、今に至る。そんな現状にどんな姿勢で臨むかは不調を脱するヒントになる。それを絶望の淵である収容所から生還した精神科医が教えてくれた。心強い。今の自分にぴたっときた。少し元気になった。「収容所」を抜け出し、そこでの経験が糧になる日が来ることを、フランクルのように「楽天的」に信じて1日1日を過ごしたい。(2023.10.16 No.94)

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