本のこと

続・青春の書

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『太郎の嫁の物語』(三浦暁子著)

 NHKでドラマ化された曽野綾子さんの小説『太郎物語』。主人公のモデルである太郎さんのその後について、妻の三浦暁子さんが書いた『太郎の嫁の物語』(ビジネス社、2023年7月)を読んだ。太郎さんは記者より一回り年上だが、出会ったのは記者が中学生、本の中の太郎さんが高校生、大学生のときだった。だから少し先を行く先輩のような存在だ。エッセーである本書により、40年ぶりに先輩の消息を知ったようである。


 暁子さんが、ある新聞記者に「『太郎物語』は青春の書だったんですよ」と声を掛けられたという件がある。それはこのブログの著者である記者にとっても同じだ。『太郎…』は下村湖人さん著『次郎物語』とともに記者の青春の書だった。曽野さんと、同じく作家の三浦朱門さんの一人息子の高校時代、大学時代をユーモラスに描いた青春小説だ


 身近に年上のロールモデルがいない中学生だった記者は、本の中の太郎さんにあこがれ、太郎さんを通して高校生、大学生についてのイメージを膨らませた。記者は父の転勤で中高校時代、名古屋に住んでいた。太郎さんの進学先も名古屋の大学であり、より親近感を抱き何度も読み直した。

 『嫁の…』では、『太郎…』の設定やエピソードの幾つかが現実のものだったと紹介されている。両書で書かれている太郎さんの口調や様子も一致している。人物造形も現実に忠実だったことが分かり、何だかうれしくなった。『嫁の…』によると、大学院を修了した太郎さんは文化人類学者として大学で働き、先ごろ退職したという。


 「前屈みでつんのめって前進する」太郎さんと、「このままずっとのほほんと生きていたい」暁子さんの夫婦。凸凹なエピソードがきっといっぱいあるのだろう。是非「青年編」「中高年編」も読んでみたい。(2023.11.04 No.98)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加