『池袋ウエストゲートパークⅤⅣⅤ 神の呪われた子』(石田衣良著)
このブログで『池袋ウエストゲートパーク(IWGP)』について書いたのは、今年の1月だった。気がつくと、ブログを始めてから1年以上過ぎていた。IWGPファンにとっては恒例となった年1回の出版。「おれの話をのんびりきいてくれ」というマコトの言葉通り、肩肘張らずリラックスして楽しむのが合っている。今回は第19作『神の呪われた子』(2023年9月、文芸春秋)だ。
表題作は、宗教2世の女の子を親と教団から自由にする話。マコトの知恵と崇の拳に胸がすく。そして今回二人の熱いハートに響いたのが子ども食堂だ。池袋のある豊島区は実際に全国的に有名な食堂が多くあり、先進地として見学者も多い。記者も以前取材したことがある。その時、記者はマコトと同じ疑問を持った。素晴らしい活動であることは言うまでもないが、仕事でもなく食堂を運営する大人たちの原動力は何なのか。
本書で食堂を運営するアズは「子どもの頃にひどく傷つくと、同じような境遇の子を放っておけなくなる。もうよそ見なんてできなくなるんだ」と自身が宗教2世であった体験を打ち明けている。子ども食堂に限らず、なぜそこまで人のために打ち込めるのかと思う活動をしている人は、強い原体験がある場合が多いと思う。
幼い我が子を病気で亡くした父親が、横浜市に子どもホスピスを作った。同じく我が子をダウン症で亡くした父親は、特別支援教育の先進校を作り上げた。2人とも記者の取材に対し、全く同じ言葉を語った。「娘に導かれました」。ただただ、頭が下がる。
「多くの子ども食堂は公的な補助を受けずに、有志の踏ん張りだけで維持しているのだ」というマコトの説明がある。その通りだ。行政側も補助しようという動きはあるが、多くの食堂は敢えて自力で運営している。箸の上げ下ろしまで指図される補助金システムを熟知しているからだ。
国立科学博物館が運営に必要な資金として、目標の1億円を上回る9億2千万円をクラウドファンディングで集めたという。日本の寄付文化が変わりつつあることを示した。子ども食堂への支援で行政がなすべきは直接的な補助金の給付ではなく、税制など寄付を集めやすい仕組みづくりだと思う。
「ただいま取材手帳の虫干し中」は、今回の記事が第100号となりました。訪問していただいた皆さまにお礼申し上げます。引き続きよろしくお願い致します。(2023.11.12 No.100)