『わたしに会いたい』(西加奈子著)
今年最初の1冊は、主に女性の身体や性にまつわる短編集『わたしに会いたい』(2023年11月、集英社)。コロナ渦にあって著者である西加奈子さん自身の乳がん発覚と治療を綴ったノンフィクション「くもをさがす」前後に発表された7編と書下ろし1編の全8編。本書は女性の共感を得ているようだが、男性も共感できる部分は少なくない。
女であることにこだわる主人公を描く「あなたの中から」。中年になり、主人公は「決定的に価値のない女になったことを、(中略)受け入れられなかった」。記者も、肉体的な衰えはもちろん、定年を数年後に控え、「価値のない男(人)」になることを恐れている。主人公の抵抗する姿は自分を見ているようで哀れで滑稽だ。
女性であるだけで強いられる理不尽には男性として耳が痛い。それを乗り越え、自分を大切にしていく登場人物たちには喝采を送りたい。そして最後の1編「チェンジ」。前7編でたまった鬱屈を全て吹き飛ばす最後の数行と一言。生きづらさを抱える全ての人の気持ちを代弁する、爽快な「チェンジ‼」。ぜひ順番通りに読んで、一体感をもった短編集を味わってほしい。(2024.1.8 No.111)