日々のこと

戦勝国の視点

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映画『オッペンハイマー』(監督=クリストファー・ノーラン)

 ゴールデンウイーク最終日、映画『オッペンハイマー』を観た。原爆の父の伝記映画。3時間の大作だ。視点は目まぐるしく変わり、展開の早いストーリーについていくのが大変だった。広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンが出てこないことなどから反発を買い、日本での公開が遅れたことでも話題になった。


 記者にとって、原爆と言えば原民喜さんの『夏の花』であり、中沢啓治さんの『はだしのゲン』だった。いずれも敗戦国、被爆国側の地べたの視点だ。それに対してオッペンハイマーは米国映画。戦勝国、原爆を落とした側の視点だ。


 オッペンハイマーらのチームは第二次大戦中、原爆をナチスや敵国よりも早く開発することを至上命題に突き進む。最終実験の成功に歓喜し、原爆を落とすまでの場面は、日本人として見ていて心が痛んだ。いや、不快だった。最大の脅威だったナチスは破れ去った。残った日本に大量破壊兵器を投下することに科学者としての迷いも描かれてはいるが、淡白だった。ヒロシマ、ナガサキという地名は出てくるものの、映像からはどこの国かも分からない。


 日本人からすると確かに反発を覚えるところだ。逆に、こうした描き方が日本に落とされた原爆に対する米国の視点であることが、映画からは浮き彫りになったように思う。“Hiroshima? Nagasaki? Where?” と。穿ちすぎだろうか。映画は第96回アカデミー賞で7冠を獲得した。


 いずれにしてもさまざまな視点を知ることは大切だ。映画で描かれていることは、日本人として知っておくべきことである。原作があり、それはピューリッツア賞を受賞し、ハヤカワ文庫から出版されていると知った。読んでみよう。(2024.05.06 No.124)

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