日々のこと

不透明さが煽る恐怖

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『BLACK BOX DIARIES』(伊藤詩織監督)

 多くの映画はつくりものだから安心して見ていられる。実話を元にしていても、どんな惨い場面でも、現実を加工してあるから。しかし、この映画は違った。つくりものでない生の現実に圧倒され続けた。

 性暴力を受けた女性本人を自身が描いた。登場人物は被害者、加害者、その他関係者含め全員が本人。本のように読者に想像の余地を与えることはない。映像を突き付け、被害者が負った傷の深さを視聴者の心に焼き付け、日本の司法制度の問題点を問う。伊藤詩織さんによるドキュメンタリー映画『BLACK BOX DIARIES』。事件から民事訴訟で勝訴するまでの映像による記録だ。伊藤さんにしか撮れない10年後の告発である。

 米映画『SHE SAID その名を暴け』は、映画界の大物プロデューサーによる性暴力を調査報道で追い詰めたニューヨークタイムズの記者2人を主人公に据えた。結果、ストーリーは記者2人の活躍がメインとなり、被害者が証言に同意するかがカギを握る。現実の世界ではそのプロデューサーが刑務所に収監された。

 それに対して『BLACK…』は、ジャーナリストであり被害者でもある伊藤さんが全てをさらけ出す。それでも事件化されない。逆に2次被害に苦しむ。映画は、警察が逮捕状を取りながら執行されない理由として権力側の圧力を示唆するが、証明するには至らない。権力が握りつぶしたのか、捜査機関が権力を忖度したのか。ブラックボックス中を映像で見せていく。執行を止めたとされる当時の警察の責任者に朝駆けしインタビューを試みる。責任者が乗った車の窓ガラスをノックしたが、車は急発進してしまう。真相はいまだ藪の中。『SHE…』のようにスパッと核心にたどり着かない日本社会の不透明さが恐怖をあおる。

 取材対象の了承を得ていない録音、取材源の秘匿など取材方法に批判は多い。記者も同様の感想を持った。一方で、それが無ければここまでたどり着くことはなかったとも思う。論点はほかにもたくさんある。どう感じるか。自分の目で観てほしい。(2026.01.23 No.185)

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