日々のこと

木漏れ日と雲

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映画『PERFECT DAYS』(監督=ヴィム・ヴェンダース)

 ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司さん主演の映画『PERFECT DAYS』を観た。スカイツリーを見上げる下町のアパートで一人暮らしをする公衆トイレ清掃員の男、平山の日常。判で押したような生活の繰り返し。何も起こらない。平山はほとんど話さない。姪が家出をして訪ねてきても、そこからストーリーが発展することもなく、日常に戻っていく。何も起こらない。でも、不思議と退屈しない映画だった。


 ごみを集め便器を磨くトイレ清掃の後は銭湯で汗を流し、行きつけの店で晩酌。パソコンもスマホもテレビさえない静かな生活。100円均一の古本を読んで寝る。ちょっとした趣味もある。ある意味、お金では買えない豊かな生活だ。


 映画は記者に問い掛けた。平山は清掃員の仕事に誇りを持ちこの生活に満足している。あなたはどうか。足元を見ず、高望みして、不平不満ばかりこぼしていないか。そして、それではいつまでたっても満足感、幸せは得られないと言われているような気がした。


 記者は不本意な仕事で心身に不調を来たしたこの1年8カ月の間に、平山と似た趣味が身に付いた。平山は仕事の休憩中に神社で木漏れ日の写真を撮るのが趣味だ。記者は雲の写真を撮るようになった。いずれも一瞬一瞬、同じ表情をすることはない。映画では同じことの繰り返しだからこそ、ちょっとした違いが際立った。日常は同じように見えて同じ日はない。ちょっとした違いに気付くことは人生を慈しみ楽しむことにつながると思う。(2023.12.25 No.108)

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