心が震える光景を目の当たりにした。
つるべ落としの秋の日。大気が冷たくなり始めた鎌倉市の古刹、浄智寺の境内で不登校など学校に馴染めない子どもたちと、彼らを支援する大人たちが音楽に合わせ輪になって踊っていた。ご住職も木魚を叩いて参加。どの顔も楽しそうだ。恥ずかしがる様子はない。心で踊っているのが分かる。緩やかだが温かい一体感が見ている方にも伝わり、心が揺さぶられた。
2022年10月21日、市内の小学4年から中学3年までを対象にした市教育委員会の不登校支援策「ウルトラプログラム」を見学した。21年度から実施しているもので、プロジェクト学習など探求的な学習を通して、自らの特性に合わせた学習方略を獲得し自立の基礎を培う。鎌倉ならではの海、森を舞台にしたそれぞれ3日間のプログラムだ。今年の海のプログラムまでは毎回取材してきたのだが、森は日程が合わず、最終日のこの日だけ見学できた。
今回は、自分の感情と身体に向き合い、それを表現するという内省的なテーマだ。表現の方法は言葉だけではない。絵や踊りもある。それら全てに取り組む必要はなく、その中から自分の心地よい方法を選ぶこともできる。
人の集まりというのは面白い。場の雰囲気はそこに集まる人たちによって決まってくる。去年から参加しているのは、ウルトラを実現させた鎌倉市の岩岡寛人教育長と教育委員会の職員の方たち、プログラムを企画・運営した福本理恵さんらスペース(東京)のメンバーと支援者たち。子どもたちの顔ぶれは去年も参加した子たちが半分、今年からの子たちが半分だった。先輩たちが引っ張り、今年からの子たちが新しい刺激を与え、「チームウルトラ」ができあがっていた。
福本さんは、東京大学先端科学技術研究センターの「異才発掘プロジェクト ロケット」で約370のプログラムのほとんどを企画・運営した。記者もぜひ参加したいと思える面白そうな企画ばかりだ。端的に言えば、福本さんあってのウルトラなのだが、福本さん自身、フェードアウトが地域にとって必要だと考えている。推進役であるキャリア官僚出身の岩岡教育長もいずれは文部科学省に戻る。ウルトラは不登校の子たちにとって既に、なくてはならない居場所になっている。そんな中で、今後のウルトラは家でも学校でもない、持続可能な「地域のサードプレイス」になりうるかが課題となる。
悲観には及ばない。浄智寺のご住職ら地域の大人たちが同じ場を体験しているのは大きい。教育委員会など参加した関係者の意識は大きく変わっている。さらにウルトラには毎回、ロケットの卒業生が何人も手伝いに来てくれていた。この日も、140近い極めて高い知能指数(IQ)を持つ一方で、アスペルガー症候群と診断され、不登校になったロケットの卒業生が力を貸してくれていた。来年は、ウルトラに参加している現在中学3年生の子たちが支援する側として参加すればいい。今回のウルトラの成果の一つは、「チームウルトラ」が持続可能な未来につながる希望を示したことだ。(2022・11・23)