学校教育

校庭先生

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 3月末、新年度前の春休み。久しぶりに旧知の小学校長先生を訪ねた。先生はいつものように、つばの広い帽子をかぶり、黄色い菜の花が盛りの花壇を世話していた。知らない人には用務員さんにしか見えない。


 校長先生とは前任校で知り合った。「子どもたちに自然体験を」と、都市部にありながら校庭を里山に変えてしまった。田んぼ、畑、トンボ池…。生態系を復活させ、夏にはカエルが鳴き、蛍が舞う学校だった。そんな実践を記事にした。全国的な賞で最優秀賞を受賞した。

 発達障害児の支援には特に力を入れ、多くの実績を残した。記者は半年間、特別支援教室に入り浸り連載した。行政機関も交えたケース会議では、関係する教員が全員で一人の子の課題に向き合っていた。志も能力も高いチームだった。


 校長のイニシアチブで公立学校を変えることはできる。そんな例をたくさんみてきた。前任校はその典型例だった。だが、校長が異動した後まで持続させるのは難しい。そんな例もたくさんみてきた。前任校もまた…。


 珍しいことではない。公立校の宿命と言ってもいい。だが、校長先生は諦めていない。地域と力を合わせて子どもたちに豊かな体験を積み重ねさせようとしている学校現場の努力を知っているからだ。それに、校長自身、区切りがついたらやりたいことがある。


「校庭先生になろうと思って」
 前任校と現任校にボランティアとして入り、校庭里山を手入れしながら、子どもたちを見守りたいという。両校には校長先生が招いたシニアが元気に校庭で子どもたちと作業しながら若い教員らを助けていた。

「だって自分が手掛けたこと、持続可能にしたいじゃないですか」
 根っからの教師は、よく日焼けした顔に大きな笑いを浮かべた。(2023.04.04)

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