学校教育

暑さは夏を奪った

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 「暑さは子どもたちから夏を奪いました」。こう残念がるのは、横浜市南部にある市立六浦小学校の尾上伸一校長だ。史上最も暑かった今夏。熱中症警戒アラートが頻繁に発令され、夏休み期間中の学校に設置されている「放課後キッズクラブ」でも子どもたちは屋内で過ごすことを余儀なくされた。結果、虫捕りなど外遊びの楽しみは失われた。先生は「帽子をかぶって川で水に足を浸していれば、熱中症になることはありません。屋内にとどまるのは仕方ないのですが、長い目で見ると弊害が出てくると思います」と顔を曇らせる。


 自然体験を重視し、新しい学校に赴任するたび、校庭に田んぼや畑、せせらぎをつくり里山に変えてしまう尾上先生。先日、横浜市公立保育士会の研修で講演した。記者は傍聴した。先生は自らの幼少期、40年の教育実践、孫の保育を踏まえ、就学前からの自然体験について「始めるには絶好のタイミング」と確信をもって説いた。


 「学校も保育です。その子が育つための生活環境を整えながら将来生きて行くために必要なことを教育する。保育が終わって教育ではなく、保育はずっとつながっていきます」と強調し、虫やカエルが集まる「簡易ビオトープ」の作り方などを具体的に説明した。


 研修会は、先生の教え子で同会副会長の成島みゆきさんらが企画した。尾上先生の教えを受けた体験から「子どもたちと田んぼをやりたくて保育士になった」という成島さん。「五感を使った体験は必要です。保育園は学校と違う難しさはありますが、育ちのチャンスとして提示できるといい」と講演を企画。参加者からは「子どもに興味を持ってもらうのが大事」「年間を通して取り組むことで生まれるものもある」といった声が上がっていた。


 夏は暑さに奪われたが、残念がってばかりもいられない。尾上先生は「虫を捕るではなく虫と暮らす覚悟です。秋以降はカブトムシです。雄雌いれば必ず産卵、孵化して幼虫になり、1年中楽しめます。『菜』のつく植物の種を蒔くと、虫がたくさん集まるし、野菜として食べられる。春が楽しみです」と巡る季節ごとの楽しみ方を教えてくれた。(2023.09.18 86回)

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