記者に霊感はない。が、これほど「場の力」を意識させられたことはない。
毎年この時期になると取材・執筆しているテーマがある。鎌倉市の不登校児童・生徒支援策「ULTLA(ウルトラ)プログラム」だ。子どもたちそれぞれが得意なインプット、アウトプットの方法、関心領域をアセスメント(事前評価)で科学的に把握した上で、自分に合った学び方を探求的なプログラムで試しながら獲得していくことを目指している。今年で3年目になり定着してきている。
プログラムは9月の海、10月の森、それぞれ3日間ずつの開催。記者は「海」を取材し、書き込み、久しぶりに充実した時間を持てた。
開放的な「海」に対して、10月9日のスポーツの日が初日となった「森」は、内省的であり哲学的だ。動と静のコントラスト。今回の森のテーマは「ゆらぎとひびき」。自分の内のゆらぎを見つめ、外、他者にどう響かせるか。プログラムのユニークさやプロのスタッフのサポートに加え、大きな役割を果たしたのは「場の力」だった。
会場は浄智寺。JR北鎌倉駅から車の連なる県道を10分弱歩いて小路に逸れると、緑豊かな参道につながる。石段を登り山門をくぐるとすぐ、静寂に包まれた別世界になる。近くには小津安二郎が生前過ごした旧家がある。そぼ降る秋雨の中、手入れの行き届いた古刹の書院で、子どもたちは落ち着きを見せ、集中力を発揮した。動の「海」とは異なる時・空間。そう感じたのは記者だけではない。多くの大人のスタッフも教育で果たされる「場の力」に言及していた。
人は自然の一部であり、環境に左右されることを意識せざるを得ない。以前取材したシュタイナー学校が建築と内装にこだわり、季節のテーブルを整えて子どもたちを迎えていた意味を今更ながら身をもって理解した。(2023.10.10 No.92)
写真:中庭に秋明菊が咲く浄智寺の書院。間もなく紅葉の季節=2023年10月9日