継続して取材している施策がある。その施策が新たな局面を迎えつつある。鎌倉市の不登校児童生徒支援策「ウルトラプログラム」だ。
ウルトラは、子どもたちそれぞれが得意なインプットやアウトプットの方法、関心領域、思考のスタイルを、発達心理学の手法などで科学的に分析したアセスメントをもとに、自分に合った学び方を探究的なプログラムで試しながら獲得する。2021年に始まった。過去3年間、鎌倉市の地勢を活かし、海と森でそれぞれ3日ずつ、体験型プログラムを展開してきた。
市教育委員会とタッグを組み、プログラムを設計・実施するのはスペース(東京都世田谷区)のCEO福本理恵さんだ。ギフテッド教育と注目された東京大学先端科学技術開発センターの「異才発掘プロジェクト ロケット」のプロジェクトリーダーを務めた経験があり、ノウハウをウルトラで発展させた。
ウルトラは既に名古屋市が23年度に実施するなど他自治体にも広がる水平展開が始まっている。今度は本家の鎌倉市がウルトラの要素を市内小中学校の一般級にも導入しようと準備を進めており、昨年12月、その第一歩となる研修が教員らに向け開かれた。水平展開に加え垂直展開も視野に入ってきた。
ユニバーサルデザインは「すべての人のためのデザイン」を意味し、年齢や障害の有無などにかかわらず、できるだけ多くの人が利用可能なデザインにすることだ。段差がないバリアフリーなど社会的弱者が使いやすいデザインは、普通の人にとっても使いやすい。教育でも同じことが言える。
ロケットやウルトラに通う子たちは認知方法などで独自の特性を持つ子が少なくないという。その子たちが学びやすいのならば一般級に通う子たちにとっても有効なはずだ。文部科学省は「個別最適な学び」をうたっているが、現場では戸惑いの声が強い。そんな中、ウルトラは「個別最適な学び」のひな形として注目され始めている。ウルトラは「ユニバーサル教育」となり、さらに広がる可能性を秘めている。(2024.1.6 No.110)