その他

高齢化問題

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『楢山節考』(深沢七郎著、新潮文庫、1956年作)
『PLAN75』(早川千絵監督・脚本、2012年)

 ドラえもんに、読む度に結末が変わる本を出してもらいたい。この本がそうだ。深沢七郎著『楢山節考』。お年寄りの知恵に感心したお殿様が、姥捨ての制度を廃止し、お年寄りを大事にするようになったとさ、という昔話のように。だが、そんなはずもなく、胸が張り裂けそうな思いの孝行息子辰平に連れられ、老母おりんは奥山に捨てられていく。
 久しぶりにこの本を読んだのは、映画『PLAN75』(早川千絵監督・脚本)を見たからだ。映画のオフィシャルサイトにはこうある。
 「少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本。満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が国会で可決・施行された。(中略)超高齢化問題の解決策として、世間はすっかり受け入れムードとなる。当事者である高齢者はこの制度をどう受けとめるのか?若い世代は?」
 この映画を見るまでは、「楢山…」も「PLAN…」も高齢化問題を描いたものだと思っていた。オフィシャルサイトにも「少子高齢化」「超高齢化問題の解決策」というキーワードが出てくる。だが、映画を見てそんなくくり方にもやもやと違和感を覚えた。その原因がやっと分かった。
 倍賞千恵子さんが演じる主人公ミチ(78)は、ひとり暮らし。高齢を理由にホテルの客室清掃の職を解雇され、住む場所も失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。もう1人、<プラン75>を選択したのは、全国の工事現場を回って生活していたが、高齢となりそれが難しくなった男性だ。日本三大ドヤ街の一つ、横浜・寿町を取材したときに出会った人たちの境遇と似ている。彼らは高齢だから3畳一間の簡易宿泊所に住んでいるわけではない。お金がないからだ。「プラン…」の2人も、金銭面で行き詰っている。「楢山…」のおりんだってそうだ。健康面では丈夫な歯を恥ずかしく思うくらいなのに、棄老は貧しい部落の掟だからだ。
 つまり、両作品とも高齢化問題を前面に打ち出しているが、本当に注目すべきは高齢者を自ら死に追い詰める貧困問題なのだ。「高齢化問題」という言い方は、無駄に世代間の対立をあおりかねないと感じた。年齢による命の線引きなどあっていいはずがない。(了)

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