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色あせない5人

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映画『THE FIRST SLAM DUNK』(井上雄彦監督)

 何度も手に取りたくなるコミックがある。記者にとっては美内すずえ作『ガラスの仮面』や吉田秋生作『海街diary』がそうだ。ある場面を読むとそこだけでは止められず、結局最後まで読んでしまう。このコミックもその一つになった。バスケットボールをテーマにした井上雄彦作『SLAM DUNK』。アニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されたのを機に長男が全巻揃えたのを借りて読んだら、止まらなくなった。

 何度も読むだけでは飽き足らず、既に2回劇場に足を運んだ長男が映画の概要を教えてくれた。湘北高校が戦うのは、コミックでは最後の対戦相手として描かれる高校バスケ界の王者、山王工業高校。「原作ではほかにもっと面白い対戦があったのに」「原作を読んでない人に分かるのかしら」などと思いながら見に行った。

 桜木花道がリバウンドをとり、ルカワがドリブルで速攻を決める。井上雄彦の絵がスクリーンの中を疾走していた。コミックではコマでしか描けない動きをアニメという手法で連続させ、CGが「リアル」さを補完していた。コミック版の主人公は桜木だが、映画では宮城リョータを主人公に据えた。時間が限られる映画の中、リョータを軸に回想シーンを挟み込むことにより、みっちゃんやゴリをすんなり5人の主人公の一人に仕立て上げた。バスケ同様、ポイントガードのリョータがゲーム(=ストーリー)を作った。原作にはないリョータのアナザーストーリーを加えることで、従来のコミックファンに新鮮さを提供するとともに、一人の少年の成長物語も盛り込んだ。

 連載が終わったのが1996年。四半世紀を超えての映画化だが全く色あせていないことに、何より驚いた。ベンチのメンバーも山王の選手たちも含め皆カッコよかった。原作を読んでいなくても十分楽しめる。「これは原作を読んでないと分からない」という場面もコミックからのファンへのご愛嬌。映画から原作に入っていくのもアリだ。(2023.01.28)

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