『ファーストラヴ』(島本理生著)
父親を殺害した女子大生と、その動機や真相に迫ろうとする臨床心理士。本の紹介文を読めば、性的虐待がテーマの心理ミステリーだろう想像がつく。が、読者の想像を超えないと小説として成立しない。直木賞受賞作ともなればなおさらだ。島本理生さん著『ファーストラヴ』(2018年5月、文芸春秋)を読んだ。
以前、虐待について取材した際、タブーであるはずの「性」の問題が家庭の外に漏れ伝わるのは、家庭が崩壊している証左だ、と専門家が指摘していたのを思い出す。本書には「こんな形の性虐待があるんだと、僕は今回の事件を通して初めて知りました」という一文がある。記者も同感だ。勉強になった。性加害と認定される範囲は広がっている。
それにしても、本書に出てくる男たちのしょうもなさにげんなりする。前回紹介した本もそうだが、最近、ダメな男たちが登場する本が多い。たまたまそういう本ばかり読んでいるのか。それとも、男とは本来ダメな生き物なのか。男って…。
本書は、検察側の稚拙さや判決の唐突さが気になった上、謎解きのだいご味に欠け、心理ミステリーとしての満足感が得られなかった。恋愛小説の名手と言われる島本さんの本を読むのは初めてだが、本筋と並行して進む心理士の主人公と義弟である弁護士との恋愛関係も、理解が難しかった。
「ファーストラヴ」。子どもを最初に愛するのは親という意味でタイトルにしたのだと思っていたが、著者インタビューを読んで読み違えていたと知った。記者には難しい本であった。(2023.12.01 No.104)