本のこと

男性モデルの不在

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『どっこい生きてる90歳 老~い、どん!2』(樋口恵子著)

 樋口恵子さんの『老~い、どん!』の続編、『どっこい生きてる90歳』(婦人之友社、2022年4月)を読んだ。前著から2歳お年を召した89歳での執筆。2歳分の確実な老いを感じた。老いを気に入らず不機嫌になる自分、階段転落事故や和式トイレで立ち上がれなくなったエピソードなど「この老いた体と生活をみなさんの前にさらし」ながら、「老いとは」を諭すロールモデルになっていただいている。

 女性には瀬戸内寂聴さんら自らをモデルに老いを教えてくれる人生の先輩は多い。本シリーズからも老いについて多くを学んだ。が、樋口さんはヨタヘロしながらも現役の文筆家。定年後のやりがい喪失に怯える記者のロールモデルにはなりにくい。

 男性の定年後の鬱々とした状況を描くのも内館牧子さんの『終わった人』のように、女性の方が上手い気がする。さらに老いについて描いてくれる先輩男性となると、記者は寡聞にして知らない。

 なぜだろう。樋口さんの回答が中らずといえども遠からずかもしれない。曰く、
 「一般に男性は年を取るとプライドが高くちょっと面倒くさい人が多くなります」
 だから、あえて恥をさらすようなことはしたくない。その結果、本書のような赤裸々なプライベートが世に出ることはない。身近にも心当たりはある。自分もそうなりそうで怖い。

 男性も「降り坂の人生を人生の道程の一つと受け止めて、できれば『晴れやかに』老いる」準備が必要だ。(2023.07.23 73回)

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